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2020-06-30

「画家が見たこども展」三菱一号館美術館

6月、梅雨の中休み。

自粛が徐々に緩和される中、やや恐る恐る丸の内にある三菱一号館美術館で開催中の「画家が見たこども展」へ行ってきました。

コロナの影響で諦めていたのですが9月22日まで会期延長となったようです。

三菱一号館美術館は建物も、緑あふれる庭園も、周りのカフェも、服部一成さんのロゴも含め、上品なクラシックとモダンが合わさったような、ゆったりとした大人な雰囲気の漂う、とてもいい美術館です。

これはなんとなくですが、私立大学のキャンパスのような雰囲気も感じます。

鑑賞後すぐ直帰してしまうことが多いのですが、いつかここでゆっくり過ごしてみたい…


現在は予約制で、入口ではフェイスシールドをつけたスタッフさんによる検温などもあり、厳重な体制が敷かれていました。
ただその分、混雑もせず作品をゆったりと鑑賞することができたかと思います。

今回の展示はナビ派(1888年から1900年頃のパリで起こった印象派に続く世代の芸術家グループ)の作品が中心でした。

ナビ派には主にピエール・ボナール、モーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイヤール、フェリックス・ヴァロットンらがいます。


以下特に好きだった作品の感想です。


フェリックス・ヴァロットン 女の子たち 1893 年、木版・紙
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

中心にいる女の子のはヴァロットンの知り合いかもしれません。
ただ、その後ろにいる女の子たちの少し冷ややかな、それでいて落ち着いた大人びた視線…

「誰?あのおじさん?なんかこっち見てるよ」と言われているようで、やや後ろめたい気分になるのは僕だけでしょうか?


フェリックス・ヴァロットン にわか雨 1894 年、木版・紙
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

雨の中、慌てて走ったり、下を向いて歩く大人たちの中、こちらを見ている男の子のキョトン顔がいい。


アリスティード・マイヨール 花の冠 1889 年、油彩・カンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

田園風景の中の子供を描いたマイヨール。
明るく軽やかな色使いと丁寧な描写が、上品で洗練されていて、この人の作品をもっと見てみたいと思いました。


ピエール・ボナール 子どもたちの昼食 1897 年頃、油彩・板
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

暖かなランプの灯る食卓でお行儀よく食事している子供たちと、それを見守る猫。
そしてそれを愛情を込めて見守るボナールおじさん。
画家の眼差しも感じられ、見ているだけで心が温かくなります。


ピエール・ボナール 猫と子どもたち 1909年、油彩・カンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

この絵の詳細は分かりませんが、テーブルの上にある何かを真剣ん見つめる少女たちの眼差しから、なぜか子供の素朴さや純粋さをすごく感じました。


ピエール・ボナール 少年のいる室内 1910年、油彩・カンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

熱心に読書する少年。
大切にしたい子供の一人の時間が、よく切り取られている作品でした。

そしてそれをそっと遠くから見つめるボナール。

iPadでYOU TUBEばかりを熱心に見る自分の娘の姿と重なってしまい、親として少し反省…


モーリス・ドニ 子ども部屋(二つの揺りかご) 1899 年、油彩・カンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

今回の展示で一番好きだった絵。

お姉ちゃんと赤ちゃんが微笑み合い(赤ちゃんはボーっとしてるだけ?)後ろの窓からは優しい夕日が差し込んでいる。

自分の娘たちの、こんなにいいシーンを描けたモーリス・ドニは幸せだろうなあと勝手に思ってしまいました。


モーリス・ドニ ノエルと母親 1896年頃、油彩・厚紙に貼ったカンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

モーリス・ドニの作品は決して華やかではないのですが、くすんだ色彩の静謐な画面に描かれる赤ちゃんや母親の微笑みから、幸せが溢れ出ていて、見ているこっちも穏やかな気持ちになります。


モーリス・ドニ 入浴するノノ 1897年、油彩・カンヴァス
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

今回、この「画家が見たこども展」という展示の企画内容自体が、自分としてはとても気になっていました。

というもの、僕は画家ではないですが、曲がりなりにもデザインやイラストを仕事としており、作り手として、また5歳と1歳の娘の父親として畏れ多くも何か共感や発見できる部分があるのでは?と思っていたからです。

近代の画家たちは「こども」という存在を、どういった視点で捉え、どういった感情を抱き、どのように描いたのか。

とても楽しみでした。


モーリス・ドニ 赤いエプロンドレスを着た子ども 1897 年、油彩・厚紙
出典:「画家が見たこども展」展覧会図録(三菱一号館美術館)

そして観終わった感想としては「こども(+それを見守る大人たち)は現代も近代もほとんど変わらないのでは」というものでした。

もちろん、自身に子供がいなかったピエール・ボナールと、自分の子供を描いたモーリス・ドニでは対象(子供)に対する心理的な距離の置き方や、描き方にそれぞれの違いがあったし、都会の人々を風刺的な視点から描いたヴァロットンは子供の無邪気で、ある種残酷な側面を的確に捉えていました。

ただそういったものの全てが「こども」そのものであり、様々な視点から画家が描く「こども」を通して、その存在の愛らしさや素朴さ、純粋さ、無邪気さ、残酷さなどを多面的に見ることができる、とてもおもしろい展示内容になっていたように思います。


先の見えない状況が続き何かしら不安やストレスを感じることも多い日々ですが、個人的には観終わった後、不思議と少し希望の持てる、また自然と温かな気持ちになれる、とてもいい展示でした。


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